40年ぶりの大改正?!2026年労働基準法の改正まとめ

タイトルにもある通り、“労働基準法の大改正”が話題です。
2025年以降、厚生労働省の検討会(労働基準関係法制研究会等)において議論が進められており、2026年を目途に法案提出・成立、段階的施行が想定されているとの報道も見られます。
最終法案・施行日は現在未確定のため最新の正式発表を注視する姿勢が求められますが、現段階で検討されているものはどのような内容なのでしょうか?
現在はあくまで議論段階であり、複数の案が検討されています。最終的な運用は今後の法文(条文)で確定しますが、「備えあれば憂いなし」です。
これを契機に一度社内点検してみませんか?
このブログでは、2026年に控えているとされる労働基準法の大改正についてわかりやすくまとめています。
目次
- ○ 改正の「全体像」――なぜ40年ぶりと言われるのか
- ○ 現在議論されている主な改正ポイント(要点まとめ)
- ・連続勤務制限・法定休日の明示・週休のルール強化
- ・勤務間インターバルの義務化
- ・有給休暇時の賃金算定におけるルール明確化
- ・「つながらない権利」
- ・副業・兼業者の割増賃金算定における労働時間通算ルールの見直し
- ・法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
- ○ 最後に
改正の「全体像」――なぜ40年ぶりと言われるのか
今回の改正議論は、労働時間管理と労働者の健康確保を大きく強化し、働き方の多様化に合わせて法制度の基盤を見直すことを狙いとしています。
具体的には、勤務間インターバル、連続勤務の上限、法定休日の扱いなど、労基法の重要部分が見直される方向で議論が進められています。
ちなみに40年前はどんな改正があったかご存知ですか?
いまから約40年前の昭和62年(1987年)改正を中心に、1990年代にかけて、労働時間法制の大きな転換が行われました。
・週40時間制と労働時間法制の大転換
当時の労働基準法の大きな柱となったのが、「週40時間制」の実質的な導入です。
この改正では、従来の労働時間体系から「週40時間・1日8時間」 を基準とする考え方が強化され、労働者の労働時間管理が明確化されました。
裁量労働制についても、1987年改正を起点に、その後の法改正で制度が整備・拡充されていきました。
これは「労働時間法制の基本を刷新した」と評価されています。
・裁量労働制・変形労働時間制の導入
当時の改正では、「裁量労働制」や「変形労働時間制」など、労働時間の捉え方を柔軟にする仕組みが導入されました。
これらは、従来の「時間計算中心」の労働時間管理から、職務の性質や業務の裁量性に応じた労働時間の取り扱いを可能にするもので、職務の裁量性や業務特性に対応する一方で、長時間労働が問題となっていた当時の労働環境への対応という側面もありました。
どちらも今につながる大きな改正であることがわかります。
現在議論されている改正案も、過渡期には戸惑いや混乱があるかもしれませんが、将来的には「当たり前」として根付いていくのでしょうか。
現在議論されている主な改正ポイント(要点まとめ)
ここでは、議論の中心にある主要項目について解説しています。
交替制・シフト制を採用している企業では、勤務割の組み方や就業規則の見直しが必要になる可能性があるため、早めの情報整理が重要です。
連続勤務制限・法定休日の明示・週休のルール強化
連続勤務日数や法定休日の取り扱いについて上限や明確化を導入する案があります。
具体的には、「一定以上の連続勤務禁止(14日以上の連続勤務を認めないとする方向性など)」「法定休日明示の義務化」とあわせて、週休ルール(4週4休の運用見直しなど)強化に関する検討が進んでいるとされていますが、これらが同時に検討される理由は、連続勤務が起こり得る背景に法定休日の運用が大きく影響しているからです。
法定休日について、労働基準法では「週休1日制の原則」として「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」旨の定めがあります。
しかし原則の他に「変形休日制」が存在し、これは「特定の4週間に4日の休日があればよい」といった運用のため、労働者にとっては連続勤務につながる仕組みでした。
この状況を解消するため、冒頭にあるような義務付けや厳格化が議論されるようになりましたが、法制化が実現すると交替制・シフト制の運用見直しが必要になる可能性があるため注意が必要です。
勤務間インターバルの義務化
「勤務間インターバル」制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保することを目的としたものです。
働き方改革関連法の1つとして盛り込まれながらも努力義務やガイドラインレベルの推奨だった勤務間インターバル制度を、義務化する方向で検討されています。
一般的には「前日の終業から次の始業までに一定の休息時間(11時間程度)」を確保することが目安とされており、義務化が実現すれば始業時間を後ろ倒しするなど勤務調整の必要が生まれるため、企業側も対応策を講じる必要があります。
有給休暇時の賃金算定におけるルール明確化
有給休暇を取得した際の賃金がどのように算定されているかご存知ですか?
時給者の方には感覚として分かりやすいかもしれませんが、月給者の方だとあまりイメージがわかないのではないでしょうか。
現行のルールでは、有給休暇中の賃金は「通常賃金」で支払うことが原則とされています。ただし、労使協定や就業規則の定めがある場合には、例外として「平均賃金方式」や「標準報酬日額方式」を用いることも認められています。
1.平均賃金方式 (直近3ヶ月分の給与額÷総日数)
2.標準報酬日額方式(標準報酬月額÷30)
3.通常賃金方式(所定労働時間に支払われる通常の賃金)
このうち「3.通常賃金方式」は、「仮にその日に出勤していれば得られる賃金」を意味し、月給者の場合は一般的にこの計算方法が採用されているため、有給を使えば月給に減額は生じないといった結果になります。
ただし時給者で特に日毎に勤務時間が異なるシフト勤務者の場合は、どの計算方式を採用するかによっては、出勤した場合と比べて賃金が少なくなるケースもありました。(もちろんその逆もあり得ます)
この状態を改善すべく、計算方法を「通常賃金方式」に統一するよう議論が進んでいます。
「つながらない権利」
社用携帯が支給されているため休みでも仕事に関する連絡が来たり、社内SNSが休みの日でも活発に動いているため通知が気になってしまうなどといった課題に対して、「つながらない権利」が検討されています。
「つながらない権利」とは、勤務時間外や休みの日に仕事上に関する連絡や対応を拒否する権利のことを言います。
この考えは世界に先駆けてフランスが2016年に法制化したところから始まります。その後世界各地に広がり、いよいよ日本でも議論が始まったのです。
日本でも「つながらない権利」がルール化された場合、緊急性を伴う連絡が発生した場合はどうするか等、実運用も想定した線引きの検討も必要になるのではないかと思います。
また、業種によっては連絡をしてくるのは社外の取引先や顧客といったケースもあり得ます。
対応しないことに対して無茶な要求などがあれば「顧客等によるハラスメント(カスタマーハラスメント)」に発展することも想定されますが、近年は、顧客等によるハラスメント(いわゆるカスタマーハラスメント)への対策についても、労働施策総合推進法の枠組みの中で事業主の対応を求める方向性が示されており、今後の法制化・制度化の動きが注目されています。
副業・兼業者の割増賃金算定における労働時間通算ルールの見直し
社会的に副業推進が進んできてはいるものの、本業と副業の労働時間の算定について、現行ルールの認知度自体が高くはないかもしれません。
まず現行ルールから整理すると、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」という前提のもと、「法定時間外に使用した事業主は、割増賃金を支払わなければならない。」という決まりがありました。
副業との労働時間の通算によって割増賃金が生じるということは、法定労働時間(日8時間・週40時間)の判定に影響することを意味しますが、それだけでなく36協定のうち一部(時間外労働と休日労働の合計で単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内)の判定にも影響を及ぼすことから、労務管理に煩雑さがありました。
また、そもそも通算にあたっては「自らの事業場における労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算することによって行う」という運用になるため、正確な労働時間の把握が難しいという課題もありました。
これが足かせになって副業の容認拡大が進まないとの指摘も踏まえてか、今回の法改正検討においてテーマに組み込まれることとなったのです。
この見直しが実現すれば、少なくとも割増賃金算定における通算の問題は整理されることになりますが、「労働時間増加による健康管理」や「機密情報の管理」といった視点での課題は残るため、副業を認める場合は社内制度を整備する必要があります。
法定労働時間週44時間の特例措置の廃止
原則、週の法定労働時間は40時間とされていますが、特例措置対象事業場※については、週の法定労働時間が44時間とされています。
次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場
・商業(卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業)
・映画/演劇業(映画の映写、演劇、その他興業の事業)
・保健衛生業(病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業)
・接客娯楽業(旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業)
特殊の必要性から設けられている特例ではあるものの、この状態については以前より議論がされていました。
そもそも、特例措置対象に該当する事業所のおよそ8割で所定労働時間が40時間以内であったことから、特例の必要性がない(一律に原則である週40時間労働制にすべき)との指摘もありました。
その一方で、週44時間に設定している特例措置対象事業場の割合にはほぼ変化が見られないことから、求人等に不利であっても変えることができない現実もある、との意見もあがり、これまで特例措置が存続してきました。
こうした状況を踏まえ、現在は特例措置の見直しが議論されています。
令和7年10月27日に行われた第204回労働政策審議会労働条件分科会では、「これまで段階的に週40時間制に移行してきたほかの業種との関係や、前回の改正の施行から四半世紀が経過していることを踏まえると、特例を廃止するのに妥当な時期に来ている。」という労働者目線での意見が上がったのに対し、「この特例に依存して運営している零細事業者もあり、家族経営や地域密着型企業にとっては死活問題になるところもある。将来的に段階的縮小も念頭に置きながら、この制度の周知や十分な移行支援が必要ではないか。」といった使用者側目線での意見が交わされました。
特例措置の廃止が実現すると、これまで特例措置に依存していた事業所にとっては従来ままでは人件費の増加となるので、労働生産性の向上で労働時間を抑える等の努力が求められることになります。
最後に
今すぐ始めるべきはまず、「現状把握」です。
勤怠実態(インターバル・連続勤務)をデータで可視化し、就業規則上の“穴”を洗い出すところから始めることが重要です。
その上で、就業規則改定草案の作成、シフトの再設計、管理職研修の実施、必要に応じた採用計画の見直しなど、施行を見据えた段階的な準備を進めていきましょう。
