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雇用契約書がないのは違法?トラブルを防ぐための作成ポイント

雇用契約書がなくても働ける?

中小企業や個人事業主の中には、「雇用契約書を取り交わしていないけれど、特に問題は起きていない」という事業者も少なくありません。実際、労働者とのやり取りが口頭だけで済まされているケースも多く見受けられます。

しかし、契約書がないままでは労使の認識のズレが起きやすく、トラブルにつながるリスクが高まります。また、労働契約の内容を書面で明示することは、法律上の義務でもあります。

本記事では、「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違い、法的な義務、トラブル事例、そして実務上の作成ポイントについて詳しく解説します。

目次

雇用契約書と労働条件通知書の違い|労働基準法で定められた義務とは

まず前提として、労働契約は書面がなくても口頭で成立します。
ですが、労働基準法第15条第1項では、使用者が労働者を雇い入れる際、「賃金、労働時間、その他の労働条件を明示しなければならない」と定められています。

この明示は、次の2点を満たす必要があります
①書面で行うこと(原則)
②必ず記載すべき事項(絶対的明示事項)を含めること

■絶対的明示事項(必須で書面明示が必要)
以下の項目は、書面(または電子メール等のデータ形式)で交付しなければなりません
・労働契約の期間
・就業場所と業務内容
・始業・終業の時刻、休憩・休日・時間外労働の有無
・賃金の決定・支払い方法・締切日・支払日
・解雇を含む退職に関する事項

これらをまとめた文書が、一般に「労働条件通知書」と呼ばれるものです。
労働者を採用する際、少なくともこの通知書の交付は法律で義務付けられているため、交付しないのは違法行為になります。

「雇用契約書」は義務ではないが作成が望ましい。その理由とは?

一方、「雇用契約書」そのものの作成は法律で義務づけられてはいません。
ですが、雇用契約書は「労働条件通知書」と異なり、労使双方が署名・押印(同意)して契約を結ぶことに意味があります。
つまり「労働条件通知書:使用者からの一方的な通知」「雇用契約書:労使双方の合意内容を証明する文書」という違いがあります。

そのため、労働条件通知書の内容に労働者が同意したという証拠が必要な場合や、後日条件をめぐるトラブルが起きたときに備える意味でも、雇用契約書の作成・保存が強く推奨されます。

なお、1通の文書で両方の役割を兼ねることも可能です。
つまり、労働条件通知書として必要な内容を盛り込んだ契約書を作成し、労使双方が署名・押印して交わすことで、法令遵守と証拠力の両方を備えられます。

雇用契約書や労働条件通知書がないとどうなる?代表的なトラブル事例

雇用契約書や通知書の不備は、以下のようなトラブルにつながりやすくなります。

賃金や勤務時間の食い違い
「時給が1,200円だと思っていたのに、給与明細では1,000円になっている」「シフト時間に残業代が含まれるとは聞いていない」など、双方の認識違いが発生しやすくなります。

解雇・退職にまつわる争い
「急な解雇通告に納得がいかない」「退職届を出したが、受理してもらえない」など、契約の終了に関する紛争も多く見られます。

労働形態・契約内容の不明確化
「正社員なのか契約社員なのか」「業務委託なのか雇用契約なのか」といった、そもそもの契約形態をめぐる争いが起こることもあります。

これらのトラブルは、書面による労働条件の明示と合意が行われていれば、防げるものばかりです。

作成時の実務ポイント|信頼関係を守るために

雇用契約書・労働条件通知書を作成する際には、以下のポイントを意識すると実務トラブルの予防につながります。

1. 法定記載事項は必ず含める
労働基準法第15条に定められた事項は、必ず書面(またはPDF等)で記載・交付する必要があります。
雇用契約書に盛り込んでいれば通知書を別途交付する必要はありません。

2. 労使の署名(電子契約でも可)をもらう
書面契約に労使双方の署名または押印があることで、合意の証拠としての効力が生まれます。紙面でなくとも、クラウド型の電子契約サービスを活用するのも有効です。

3. 就業規則との整合性をとる
契約書の内容が就業規則と食い違っている場合、労使間の混乱や法的リスクを招きかねません。
会社全体のルールと一貫性のある記載を心がけましょう。

4. 定期的な見直し・更新を行う
労働条件は時間とともに変化する可能性があります。
契約内容が現実に即しているかを定期的に確認し、必要に応じて改訂することも大切です。

おわりに:法令遵守は会社と従業員の安心を守る土台

「契約書がなくても雇用関係は成り立つ」といった認識で済ませていると、いつかトラブルに見舞われる可能性があります。
特に現在は、働き方改革の影響もあり、法令遵守と労務管理の適正化が一層求められる時代です。

雇用契約書と労働条件通知書の違いを理解し、適切に作成・交付することが、従業員との信頼関係を守る第一歩です。
まだ契約書を整備できていない企業は、社労士など専門家のアドバイスを受けながら、ぜひ早期に対応を進めてみてください。

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