吃音(症)を抱える方とのコミュニケーションで必要な配慮とは?
吃音と聞いて、どういった症状を指すのかは多少イメージがつくことでしょう。
ただ、吃音の方がコミュニケーション上や職場で求める配慮についての認知度は高くないかもしれません。
このブログでは吃音について理解を深めるとともに、どういった配慮があれば吃音を抱える方にとっても話しやすい環境になるのかについて考えます。
吃音についてのイメージを掴めるよう、当事者へのインタビューも含んだ記録や吃音をテーマにした作品をいくつか紹介しています。
ぜひ、最後までお読みください。
目次
- ○ 吃音とは
- ・吃音で障害年金は受けられるのか?
- ○ 吃音について理解を深めるために
- ・注文に時間がかかるカフェ/大平一枝 著
- ・きよしこ/重松 清 著
- ・英国王のスピーチ
- ○ 吃音の方とのコミュニケーションで必要な配慮
- ○ おわりに
吃音とは
吃音/吃音症(きつおん/きつおんしょう)とは、言葉がどもったり、同じ言葉を繰り返すなどの症状が出る発話障害のひとつです。
最初の言葉を繰り返してしまう「連発」、意図しない所で言葉を伸ばして発音してしまう「伸発」、最初の言葉が出るのに時間がかかる「難発」など、吃音の種類は様々ですが「滑らかに話せない」といったことにコンプレックスを感じたり、周囲からのからかいを受けるなど苦痛を伴います。
また、吃音による発話障害だけでなく、言葉を出そうとして体や顔に力が入ったり手を振り下ろすなどの随伴症状が生じることもあります。
その他、「社交不安障害」を発症しやすいのも吃音当事者が抱える深刻な問題です。
・SAD (social anxiety disorder)とも呼ばれ、不安障害のひとつである。
・他人から注目される場面で強い恐怖や不安、過度な緊張を感じる。
・代表的な症状としては、手の震えや赤面、発汗や動悸があげられる。
吃音で障害年金は受けられるのか?
吃音には、発達性吃音と獲得性吃音に分類されますが、吃音の9割は前者であるとされています。
発達性吃音は幼少期のうちに発生するケースがほとんどである一方、獲得性吃音は脳損傷やストレスなどを原因として青年期以降の発症が多いです。
「発達性吃音(発達性言語障害)」は世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第10改訂版(ICD-10)において「通常小児期および青年期に発症する行動および情緒の障害」に分類されていて、発達障害者支援法の対象にもなっています。
そのため、障害年金の申請を検討する際も発達障害の枠組みで障害の重さがどの程度なのかを考えていくこととなり、発達障害として申請するには精神障害用の診断書を用いるため、精神科の受診が原則となります。
上述したような社会不安障害なども併発しているのであれば、あわせて診断書に盛り込むことができるよう医師とのコミュニケーションが大切になってきますので、どのようにすすめるべきか不安な方は社労士に相談すると良いかもしれませんね。
吃音について理解を深めるために
吃音は、このあと紹介する『注文に時間がかかるカフェ』では100人に1人いると紹介されています。
日本における田中姓と同じ割合だそうですが、その割に吃音に対する知識が社会に浸透していなかったり、実際に当事者と出会ったことがないといった方も少なくありません。
これは吃音当事者にとっても同様で、自分以外の吃音を抱える人と出会えずに一人で悩みを抱えてしまう悪循環を招いているようです。
この背景には、吃音当事者は言葉の言い換えなどの工夫によって症状をカモフラージュしていたり、会話を避けるようになったり、ひどい場合だと社会不安障害によって人前に出なくなるなどして吃音であることを伏せる傾向にあることも影響しています。
吃音を抱えていてもコミュニケーションにコンプレックスを感じることなく生きていくために、まずは吃音を知って理解することが大切です。吃音に対する理解の入口として、次の3作品をご紹介します。
『注文に時間がかかるカフェ』と『きよしこ』では、吃音を “縄跳びの輪に入るタイミングがつかめない感覚” と表現するのが共通し、『きよしこ』と『英国王のスピーチ』では吃音の発症時期に重なる幼少期のトラウマが描かれていたように、各作品の間には細かな共通点が随所に感じられました。
1つだけではなく違った3作品に触れたからこそ、吃音当事者が日常的に避けていることや工夫を凝らしていることへの理解が進んだように思います。
「吃音当事者が日常的に避けていることや工夫を凝らしていること」は、周囲の協力によって軽減できることもあると思うので、まずは知ることから認識が進めば良いなと感じます。
注文に時間がかかるカフェ/大平一枝 著
吃音を抱えていると、仕事の選択肢にも影響を及ぼします。
特に、吃音は接客や電話対応が伴う仕事との相性が良くないため、吃音を抱える人はそれらの仕事に就くことをあきらめる傾向にあります。
注文に時間がかかるカフェ(以下、注カフェ)は、そんな「吃音を理由に接客業に挑戦できない人」のための取り組みです。
主宰の奥村さん自身もカフェでのバイトに憧れながらも吃音のためにその夢をあきらめた過去があり、自分と同じような気持ちを抱える若者にカフェでの接客に挑戦できる場を提供するとともに、吃音に対する正しい理解を促進しようと取り組まれています。
注カフェに参加する若者と主宰の奥村さんへの密着を記録した『注文に時間がかかるカフェ』は、ルポルタージュならではの生の手触りがあり、吃音当事者のリアルな葛藤に触れることができる1冊です。
きよしこ/重松 清 著
『きよしこ』は、著者の重松清さんご自身が少年時代吃音で悩んでいたことが反映されていると言われています。きよしこを含め、重松清さんの作品はいくつかこれまでにも読んだことがありましたが、今回吃音について触れるにあたって再度きよしこを手にとってみました。
タイトルの『きよしこ』は、きよしという名の主人公が「きよしこの夜」の曲名を「“きよしこ”の夜」と勘違いしたことに由来しているのですが、きよしは自分の名前とよく似た“きよしこ”に親しみを感じ、まるでイマジナリーフレンドのように心の中で話しかけます。
ふだんは言葉がつまって言いたいことが言えずにからかわれたり悔しい思いをするきよしですが、心の中でのきよしことの会話では詰まらずに話せるのです。
表題作『きよしこ』から始まるこの短編集を読み進めていくと、まるで、きよしという一人の人間が吃音に葛藤しながら少年時代から青年になる姿を、きよしこの目線で見守っている気持ちになります。
ストーリーに入る前の小説の導入部分では、作者の重松さんのドキュメンタリー番組をみた方から手紙が届いたエピソードが書かれています。
差出人は吃音を抱えた息子を持つ母で、重松さんが吃音を乗り越えた姿に感動したことと、ぜひ子どもに手紙を書いて励ましてほしいといった要望をしたためたものだったと紹介されていました。
重松さんは返事を書く代わりに、冒頭で「君に宛てる手紙のかわりに、短いお話を何編かかいた。」と述べ、そして小説の最後には「本ができあがったら、真っ先に、君に送るつもりだ。」と締められていました。
吃音の有無に限らず、言いたいことを飲み込んでしまうシーンは誰しも経験があるかと思います。『きよしこ』を一番に受け取った彼以外にも、この一冊に励まされた人は多いだろうなと感じる1冊でした。
英国王のスピーチ
英国王のスピーチは、以前Googleビジネスでもご紹介した書籍『大人の発達障害と映画で知る関連疾患』で取り上げられていて興味がありました。
幼少期から吃音を抱える主人公が、父の崩御そして後継者であった兄の皇族離脱を経て王位に即位するにあたって、吃音と向き合っていく姿が描かれています。
王として国民に向けたスピーチを務めるために、言語聴覚士と二人三脚で時に激しくぶつかりながらも治療に取り組みます。
脳内での会話や独り言では吃音にならないこと、罵倒するときは吃音になりにくいこと、ヘッドホンで大音量の音楽を聴きながらであれば詰まらずに話しやすいことなど、治療への取り組みシーンからの気づきが多かったです。
吃音のきっかけになった幼少期のトラウマを言語聴覚士に吐露する姿からは、2人の間に友情が生まれていることもうかがえるほど、特別な関係を築きます。
そんな2人が力を合わせて挑む9分間のスピーチは観ている側もドキドキしてしまうほどでした。
吃音の方とのコミュニケーションで必要な配慮
吃音の方とのコミュニケーションにおいて心掛けるべき点は、上で紹介した『注文に時間がかかるカフェ』が非常に参考になりました。
会話の中で言葉に詰まったときに、良かれと思って言葉を代弁してしまいそうなものですが、時間がかかっても言葉が出るまで待ってほしいと感じるタイプもおられます。
吃音を抱えていると、言いやすい言葉かどうかを優先するあまり本意ではない言葉を選択したり、伝えたい言葉があるけれど飲み込んでしまうことも少なくないようです。
これは飲食店や買い物のシーンでも本当に希望する商品を伝えられなかったり、他人とのコミュニケーションの中で意見がない子と誤解されたりと歯がゆく悔しい体験として、吃音当事者を苦しめます。
家族間であっても吃音の話題はタブー視されていたり、友人関係でも自身が吃音であると明かさないこともあり、面と向かって言葉に詰まった際にどうしてほしいか聞くのは容易ではないかもしれません。
ただ、吃音の症状で会話が中断された時に言葉を代弁するだけでなく、言葉が出るまで待つ姿勢も配慮のひとつと知っていると、場に応じた適切な配慮の選択に繋がるのではないでしょうか。
また、言葉がでるまで待つ際に気を付けたいことに、「焦らなくていいよ」「ゆっくりでいいよ」といった励ましは逆効果であることも知っておく必要があります。
これらの励ましの言葉に悪意はなく、むしろ配慮として掛けられたはずの言葉ですが、吃音は焦っているから言葉が出ないわけではないため、却って本人にとってはモヤモヤが残る声掛けになってしまいます。
適切な配慮をするためには、やはり吃音に対する誤解を解くために吃音を知ることが重要であることが伝わったかと思います。
先に紹介したような吃音をテーマにした作品等から、吃音当事者の心の内に触れることからはじめてみませんか?
おわりに
吃音に対する理解は世代によって違いが見られるといいます。
紹介した『注文に時間がかかるカフェ』で書かれていたことですが、年齢層が高いほど吃音に対する誤解も多く、「意識させなければ治る」と信じられていた時代もあるようです。
そういった時代背景も相まって、子どもを思って家庭内で吃音の話題をタブーにした結果、吃音当事者である子どもは家庭で吃音に関する悩みを打ち明けられなくなってしまうといった、皮肉なことも起こっています。
家庭では気を使われる一方で、外の世界では子どもならではの無邪気なからかいから始まり、成長の過程では進学や就職の選択肢が狭まるなど様々な困難に直面します。
私たちひとりひとりが吃音について理解を深めることで、吃音当事者を悩ませる社会的な障壁を少しでも取り払い、気後れさせない社会を目指したいものですね。
このブログでは、週に1度のペースで発信しているので、過去記事もご覧いただけると嬉しいです。
<第1位>カサンドラ症候群って知ってる?職場で生まないために注意すべきポイントをご紹介。
<第2位>生活保護を返金することになるってホント?!障害年金との調整について社労士が解説!
<第3位>自己愛性パーソナリティ障害ってどんな病気?障害年金の受給対象になるかについても解説。