高次脳機能障害者支援法の施行で何が変わるのか~見えにくい障害への理解と支援のために~

交通事故や脳卒中などの後遺症として生じる「高次脳機能障害」。
身体に大きな障害が見られない場合も多く、周囲から理解されにくいことから、「見えにくい障害」とも呼ばれています。
近年、高次脳機能障害のある方への支援体制の充実が課題とされてきましたが、高次脳機能障害者支援法の施行(令和8年4月1日 )により、国や自治体の責務がより明確化されることとなりました。
本記事では、高次脳機能障害とはどのような障害なのか、支援法制定の背景と目的、そして私たちが知っておきたいポイントについて解説します。
目次
高次脳機能障害とはどのような障害なのか

高次脳機能障害とは、脳卒中や脳外傷、脳炎、低酸素脳症などによって脳が損傷を受けた結果、記憶や注意、感情のコントロール、コミュニケーションなどに障害が生じる状態を指します。
高次脳機能障害によって、約束を忘れてしまう/同時に複数の作業ができない/集中力が続かない/感情のコントロールが難しい/相手の意図を読み取ることが苦手になる…といったような困りごとが起こることがあります。
その一方で身体機能には大きな問題がない場合も多く、外見から障害が分かりにくいという特徴があります。
そのため、怠けている・やる気がないといった評価を受けたり、性格が変わったなどと誤解されてしまうことも少なくありません。
また、本人自身も障害を十分に認識できていない場合があり、就労や学校生活、人間関係の中で困難が生じながらも支援につながりにくいという課題が指摘されてきました。
なぜ高次脳機能障害者支援法が制定されたのか

高次脳機能障害への支援は、これまでも障害者総合支援法や各自治体の事業などを通じて行われてきました。
しかし、高次脳機能障害は制度上の位置付けが分かりにくく、地域によって支援体制に差があることや、医療から福祉・就労支援への移行が十分に機能していないことが課題とされていました。
また、障害の特性が十分に理解されていないことから、必要な支援につながりづらく、就職や復職が難しいなどの課題を抱え、身近で支える家族だけが負担を抱えてしまうといった問題も生じていました。
こうした状況を踏まえ、高次脳機能障害のある方が地域で安心して生活できるよう、支援体制の整備や理解促進を進めることを目的として、高次脳機能障害者支援法が制定されました。
この法律では、国や自治体が支援体制の整備に努めることや、医療・福祉・教育・就労支援などの関係機関が連携しながら支援を行うことの重要性が示されています。
つまり、「本人や家族の努力」に委ねるのではなく、社会全体で支える仕組みづくりを進めていこうという考え方が背景にあります。
私たちが知っておきたいこと

高次脳機能障害者支援法の施行は、専門職や支援機関だけに関係する話ではありません。
なぜなら交通事故や脳卒中などは特別な人だけに起こるものではなく、高次脳機能障害は誰にでも起こり得る障害だからです。
職場や地域の中で、高次脳機能障害のある方と関わる機会を持ったときに大切なのは、「見た目では分からない困りごとがあるかもしれない」という視点を持つことです。
本人が忘れっぽく見えたり、同じミスを繰り返したりしても、それを単なる努力不足や性格の問題として捉えるのではなく、障害特性が背景にある可能性を理解することが重要です。
また、支援においては「できないこと」だけを見るのではなく、「どのような工夫があればできるのか」を考える視点も欠かせません。
これは障害福祉の分野だけでなく、障害者雇用や職場での合理的配慮にも通じる考え方です。
その意味では、高次脳機能障害者支援法の施行は、制度の整備だけでなく社会全体の理解を深めるための一歩とも言えるでしょう。
見えにくい障害だからこそ、私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、本人や家族が孤立しない社会を目指していくことが求められているのではないでしょうか。
