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集中し続けるほど成果は上がるのか?~脳の仕組みから考える生産性~

仕事では「集中すること」が良いこととされがちです。

しかし、長時間集中し続けることは本当に生産性向上につながるのでしょうか。

近年の脳科学では、人間の脳には課題に集中する際に働く「タスクポジティブネットワーク(TPN)」と、ぼんやり考え事をしている時に働く「デフォルトモードネットワーク(DMN)」があることが知られています。

本記事では、これらの脳の仕組みを手がかりに、生産性や働き方改革、そして一人ひとりが力を発揮しやすい職場づくりについて考えてみたいと思います。

目次

集中し続けることは、本当に生産的なのか

私たちは子どもの頃から「集中しなさい」「よそ見をしてはいけない」と言われながら育ってきたからか、社会人になってからも集中力が高い人は優秀であり、長時間仕事に向き合える人ほど成果を出しているように見えることがあります。

しかし、人間の脳は本当に長時間集中し続けることに適した構造なのでしょうか。

脳科学の分野では、課題に取り組んでいる時に活発になる脳のネットワークを「タスクポジティブネットワーク(Task Positive Network:TPN)」と呼びます。これは例えば資料作成やデータ分析、会議での意思決定など、目の前の課題に集中している時に働くネットワークのことです。

一方で、人は一日中この状態を維持しているわけではなく、移動中や休憩中、何気なく考え事をしている時には、「デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network:DMN)」という別のネットワークが活発になります。DMNはしばしば「ぼんやりしている脳」と説明されますが、決して何もしていないわけではなく、過去の経験を整理したり、自分自身を振り返ったり、将来を想像したりする重要な働きを担っています。

つまり人間の脳は、「集中する時間」と「考えを巡らせる時間」を行き来しながら機能しているのです。

なぜ“頑張り続ける人”ほど疲弊するのか

生産性向上という言葉を聞くと、「もっと集中する」「もっと効率化する」といったイメージが先行しますが、生産性は単純に集中時間の長さだけで決まるものではありません。

例えば、良いアイデアが浮かぶのはどんな時でしょうか。思い返してみると、机に向かって必死に考えている時よりも、散歩中や入浴中、通勤中など、むしろ仕事から少し離れた瞬間にひらめいた経験がある人も多いのではないでしょうか。

これには上の章で説明したDMN(デフォルトモードネットワーク)の働きによって、ぼんやりしているように見える時間にも、実は脳は情報を整理し、経験と経験を結びつけ、新たな発想を生み出そうとしていると考えられています。

しかし現代の職場では、「常に何かをしている状態」が評価されやすい傾向があります。いち早くメールを返し、会議のスケジュールが詰まっていて、持ち帰ってまで資料を作る…。このような働き方に心当たりがある方も多いでしょう。

こうした活動は目に見えやすいため評価されやすい一方で、考えを整理する時間や発想を深める時間は軽視されがちです。その結果、「頑張っているのに成果が出ない」「忙しいのに充実感がない」という状態に陥ることがあります。

成果を生み出すためには、脳のモードの切り替えを意識して、集中する時間だけでなく脳が情報を整理する余白も必要なのです。

働き方改革が問いかけた「時間」と「成果」の関係

働き方改革では時間外労働の上限規制や有給休暇取得の促進などが注目されることが多いですが、その背景には「長時間働けば成果が出るとは限らない」という問題意識があります。

日本の職場では長らく、「長く働く人ほど頑張っている」という価値観が根強く存在してきましたが、知識労働が中心となった現代では、成果を生み出すために必要なのは単純な労働時間の長さではありません。

仕事の成果を生むには、考え学び対話して、そして十分な休息時間が必要だと理解されるようになり、その流れの中で導入された制度のひとつが高度プロフェッショナル制度です。

制度そのものについては様々な議論がありますが、その背景には「何時間働いたか」ではなく、「どのような価値を生み出したか」を重視しようとする考え方があります。

TPNとDMNの存在を考えると、人間の脳はそもそも連続的な集中状態を前提としないので、そもそも「常に集中し続けること」を理想とする働き方には無理があるのかもしれません。

働き方改革が本当に目指しているのは、単に労働時間を減らすことではなく、成果につながる働き方を見直すことなのではないでしょうか。

生産性を高めるのは「集中力」だけではない

このテーマは、障害者雇用や就労支援の現場にも通じる部分があります。

職場ではしばしば「長時間集中できる人が優秀」という前提で評価が行われることがありますが、人によって集中の持続時間は異なります。

短時間で高い成果を出す人もいれば、適度な休憩を挟むことで力を発揮できる人もいます。

特に発達障害や精神障害のある方の中には集中力の波が大きい人も少なくないため、一定時間ごとに休憩を取ることや、作業環境を調整することが、結果として生産性向上につながるケースもあります。

これは障害者雇用に限った話ではありません。ここまで説明した通り、本来、人間の脳は誰しもTPNとDMNを行き来しながら働いています。

つまり、「集中し続けることができる人」が優秀なのではなく、「自分に合った集中と休息のリズムを見つけられる人」の方が、長期的には力を発揮しやすいと言えるかもしれません。

企業に求められるのも、画一的な働き方を押し付けることではなく、多様な人がそれぞれの力を発揮できる環境を整えることではないでしょうか。

おわりに

脳科学の視点から見ると、タイトルの「集中し続けるほど成果は上がるのか」に対する答えは必ずしも「YES」ではありません。

人間の脳は、課題に集中するTPNと情報を整理し発想を育てるDMNを行き来しながら働いていることを理解すれば、生産性を高めるために必要なのは、集中時間を増やすことだけではないことが分かっていただけたかと思います。

適切に休み、考え、振り返る時間を持つこともまた、成果を生み出すための大切な要素であると理解して、忙しさや労働時間だけで働きを評価するのではなく、一人ひとりの特性や脳の仕組みに目を向けながら働き方を考えることがこれからの時代に求められる生産性向上のヒントなのかもしれません。

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