なぜ男女間の賃金格差はなくならないのか――企業が今こそ向き合うべき構造的課題

日本では近年、男女間の賃金格差は縮小傾向にあるものの、依然として大きな差が残っています。
その背景には、職種や役職への配置の偏り、評価制度のあり方、育児や介護と仕事の両立をめぐる課題など、複数の要因が存在します。
企業には男女間賃金差異の公表も求められるようになり、格差是正は単なる法令対応ではなく経営課題として位置付けられています。
本記事では、男女間賃金格差が生じる要因を整理し、企業が取り組むべき課題について解説します。
目次
数字で見る男女間賃金格差の現状

近年、「男女間賃金格差」という言葉を耳にする機会が増えました。背景には、一定規模以上の企業に対して男女間賃金差異の公表が義務付けられたことがあります。
厚生労働省の統計によると、日本の一般労働者における女性の賃金水準は男性を100とした場合、およそ76程度となっています。長期的にみれば格差は縮小しており、統計開始以来もっとも差が小さい水準となっていますが、それでもなお約4分の1の開きが存在していることになります。
もっとも、この数字だけを見て「同じ仕事をしているのに女性の給与が24%低い」と結論付けることはできません。実際の賃金差は、職種や役職、勤続年数、働き方など、さまざまな要素が積み重なった結果として表れています。
そのため、男女間賃金格差を考える際には、賃金制度だけではなく、人材配置や評価、キャリア形成の仕組みなど、企業組織全体のあり方に目を向ける必要があります。
また、少子高齢化による人材不足が深刻化するなか、性別にかかわらず能力を発揮できる環境を整備することは、企業の持続的成長に直結する重要な経営課題となっています。
職種配置と評価制度に潜む見えにくい格差

男女間賃金格差の背景としてまず挙げられるのが、職種や役割の偏りです。
日本企業では長年にわたり、営業職や管理職、技術職など比較的賃金水準の高い職種には男性が多く配置される一方、事務職や補助的な業務には女性が多く配置される傾向がありました。
もちろん、職業選択には本人の希望も反映されます。しかし一方で、「男性には責任の重い仕事を任せる」「女性にはサポート業務が向いている」といった無意識の固定観念が採用や配置に影響を及ぼしているケースもあります。
さらに注意したいのが、仕事内容そのものよりも職務区分や評価制度によって処遇に差が生じるケースです。
例えば、顧客との折衝や提案活動を担っていても、ある社員は営業職として評価される一方で、別の社員は補助的な職種として位置付けられる場合があります。業務内容や責任の程度が近いにもかかわらず、昇進ルートや賃金テーブルが異なれば、結果として賃金差につながります。
近年では職務内容を明確化し、仕事内容や責任に応じて評価するジョブ型人事制度への関心も高まっています。制度の名称にかかわらず、企業に求められるのは、性別や慣行ではなく実際の職務内容に基づいて評価する仕組みを整備することです。
また、管理職登用の機会が男女で実質的に平等に確保されているかを定期的に検証することも重要です。賃金格差の多くは基本給そのものではなく、役職手当や昇進機会の差から生じているケースも少なくありません。
キャリア形成を阻む壁と企業が果たすべき役割

男女間賃金格差を考えるうえで、育児や介護などのライフイベントの影響は避けて通れません。
近年は共働き世帯が主流となっているものの、家庭内における家事や育児、介護の負担は依然として女性に偏る傾向があります。その結果、出産や育児を契機として一時的に離職したり、短時間勤務やパートタイム勤務を選択したりするケースが少なくありません。
こうした働き方そのものが問題なのではなく、それによってキャリア形成の機会が制限されてしまうことが課題です。
例えば、
・勤続年数が短くなる
・重要なプロジェクトへの参加機会が減る
・管理職候補として認識されにくくなる
・長時間労働を前提とした業務への従事が難しくなる
といった状況が重なれば、昇進や昇給の機会にも影響を及ぼします。
そのため、男女間賃金格差の是正は女性だけの問題として捉えるべきではありません。男性の育児休業取得促進や柔軟な働き方の導入などを通じて、家庭責任を特定の性別に偏らせない環境づくりが重要です。
テレワークやフレックスタイム制度、短時間正社員制度など、多様な働き方を支える仕組みはすでに広がりつつあります。しかし制度を導入するだけでは十分ではありません。
制度利用者が昇進や評価において不利益を受けないこと、そして成果や能力によって公正に評価される文化を根付かせることが求められます。
男女間賃金格差の問題は、単なる数値改善や法令対応にとどまりません。多様な人材が活躍できる職場環境を整備し、企業の競争力向上につなげるための経営戦略の一環として捉えることが重要です。
採用、配置、評価、昇進の各段階に潜む固定観念や慣行を見直し、一人ひとりが能力を発揮できる環境を整備することこそが、これからの企業に求められる取り組みではないでしょうか。
