SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?――ディーセント・ワークとビジネスと人権の視点から考える企業の責任

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」は、持続的な経済成長と、すべての人が尊厳をもって働ける社会の実現を目指す国際目標です。
その中心にあるのが「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」という考え方です。
近年は「ビジネスと人権」への関心が高まり、企業には法令遵守にとどまらず、人権を尊重した経営や労務管理が求められるようになっています。
本記事では、ディーセント・ワークの意味と企業に求められる役割について解説します。
目次
SDGs目標8とディーセント・ワークが目指す社会

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに達成すべき17の目標で構成されており、その中の目標8は、「働きがいも経済成長も」です。
この目標は、持続可能な経済成長を実現するとともに、すべての人が生産的で働きがいのある仕事に就き、安心して働き続けられる社会の実現を目指しています。
ここで重要となるのが、国際労働機関(ILO)が提唱する「ディーセント・ワーク(Decent Work)」という考え方です。
ディーセント・ワークは単に仕事がある状態を指すものではなく、労働者としての権利が守られ、適正な収入を得ることができ、安全で健康的な環境のもとで働き、必要な社会的保護を受けながら能力を発揮できる仕事を意味します。
具体的には、
・適正な賃金が支払われること
・安全衛生が確保されていること
・差別やハラスメントがないこと
・労働者の権利が尊重されること
・仕事と生活の調和が図られること
・能力開発や成長の機会があること
などの保護の下で働くことができる環境を指しています。
近年、日本では少子高齢化による労働力人口の減少が進み、人材確保が企業経営の大きな課題となっていますが、そのような状況において、従業員が安心して働き続けられる環境を整備することは、単なる福利厚生の充実ではありません。企業が持続的に成長していくための重要な経営戦略であり、人的資本経営の基盤そのものといえるでしょう。
「ビジネスと人権」が企業経営に求めるもの

近年、企業経営において急速に重要性を増している考え方が「ビジネスと人権」です。
これは、企業活動によって生じる人権への影響を把握し、人権侵害を防止・軽減し、問題が発生した場合には適切に対応する責任を企業が負うという考え方です。
従来、人権問題というと海外の児童労働や強制労働などが注目されることが多くありましたが、現在では、日本国内の企業活動においても人権尊重の視点が求められています。
例えば、
・長時間労働による健康被害
・パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント
・育児や介護との両立を妨げる職場慣行
・障害や性別、国籍等を理由とする差別的取扱い
・外国人労働者に対する不適切な労務管理
などは、いずれも人権課題として捉えられています。
さらに近年は、自社だけでなく取引先や委託先を含めたサプライチェーン全体での人権尊重が求められるようになっています。その背景には、国連が公表した「ビジネスと人権に関する指導原則」があり、この指導原則では、企業に対して「人権デューデリジェンス」の実施が求められています。
人権デューデリジェンスとは、①人権リスクを把握する ②リスクを予防・軽減する ③取り組み状況を確認する ④情報を開示する という継続的なプロセスです。
大企業だけでなく、中小企業においても取引先から人権方針や労務管理体制について確認を求められるケースが増えています。
これからの企業経営において、人権への配慮は社会貢献活動ではなく、企業が果たすべき責任として位置付けられているのです。
ディーセント・ワークを実現するために企業が取り組むべきこと

では、企業はどのような取り組みを進めればよいのでしょうか。
まず基本となるのは、法令を遵守した適切な労務管理です。
長時間労働の抑制、適正な労働時間管理、割増賃金の適切な支払い、有給休暇の取得促進、安全衛生体制の整備などは、ディーセント・ワークを実現するための出発点となります。
しかし、それだけでは十分とはいえず、企業には多様な人材が能力を発揮できる環境づくりも求められています。
女性活躍推進、高齢者雇用、障害者雇用、外国人雇用などが進むなかで、採用だけでなく、公平な評価や成長機会を提供することが重要です。
また、育児や介護と仕事の両立支援も欠かせません。テレワークやフレックスタイム制度、短時間勤務制度などを活用しながら、多様な働き方を認めることで、人材の定着や生産性向上にもつながります。
さらに重要なのが、従業員の声を把握し、職場環境の改善につなげる仕組みを整備することです。
ハラスメント相談窓口の設置や定期的な従業員アンケート、ストレスチェックの活用などを通じて、職場に潜む課題を早期に発見し改善していくことが求められます。
こうした取り組みは、従業員満足度を高めるためだけのものではありません。
近年では、投資家や金融機関、取引先も企業の人権対応や労務管理の状況を重要な評価項目として捉えるようになっています。
そのため、ディーセント・ワークの実現は、
・人材確保と定着
・企業ブランドの向上
・取引先からの信頼獲得
・投資家からの評価向上
・企業リスクの低減
といった経営上のメリットにもつながります。
SDGs目標8が掲げる「働きがいも経済成長も」という言葉は、働く人への配慮と企業の成長を対立するものとして捉えていません。むしろ、働く人の尊厳と権利を守り、一人ひとりが能力を発揮できる環境を整えることこそが、企業の持続的成長を支える原動力になるという考え方です。
人材不足や価値観の多様化が進む時代だからこそ、ディーセント・ワークとビジネスと人権の視点を経営の中核に据えることが、これからの企業に求められているのではないでしょうか。
