がんの治療と仕事は両立できるのか? 企業に求められる「治療と仕事の両立支援」とは

医療の進歩により、がんは「治らない病気」ではなく、「治療しながら生活する病気」として捉えられるようになってきました。
一方で、がんと診断されたことをきっかけに仕事を辞めてしまう人も少なくないといった課題を抱え、働く世代のがん患者が増える中、企業には治療と仕事の両立を支える視点が求められています。
本記事では、がんの罹患状況や退職率の実態、部位別に生じやすい困りごと、そして職場でできる配慮について考えてみたいと思います。
目次
がんは誰にとっても身近な病気になっている

現在、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性で61.1%、女性で50.1%とされており、男女ともにおよそ2人に1人ががんを経験すると推計されています。また、国立がん研究センターによると、2023年に新たにがんと診断された人は約99万人にのぼります。
また、がんは高齢者だけの病気ではありません。厚生労働省によると、がん患者の約3人に1人は20代から60代の就労世代であり、多くの人が仕事を持ちながら通院や治療を続けています。
つまり、どの企業においても「従業員ががんになる可能性」を前提とした対応が求められる時代になっていると言えるでしょう。
がんをきっかけに仕事を辞める人は少なくない

厚生労働省が紹介している患者体験調査によると、がんと診断された就労者の19.8%が退職または廃業を経験しており、そのうち56.8%は初回治療開始前に退職していたことが報告されています。
この数字から見えてくるのは、治療そのものよりも「病気への不安」「職場からの遠慮の有無」「仕事との両立への見通しのなさ」によって退職を選択しているケースが少なくないということです。
もし診断直後の段階で、「治療しながら働くこともできますよ」「会社としてできる配慮を一緒に考えましょう」というメッセージが伝われば、防げる退職もあるかもしれません。
がんは部位によって困りごとが異なる

2021年のがん罹患数順位を見ると、男性では前立腺がん、大腸がん、肺がん、胃がん、肝臓がんが多く、女性では乳がん、大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がんが多くなっています。
しかし、同じ「がん」でも、発生部位によって職場で生じる困りごとは大きく異なります。以下でそれぞれの特徴について確認してみましょう。
※以下で紹介する特徴や配慮例はあくまで一般的なものです。個人の希望や症状に合わせて適切に判断しましょう。
がん患者への配慮というと、特別な制度や大掛かりな対応をイメージするかもしれません。しかし実際には、最も重要なのは本人との対話です。
当然ですが、同じ部位のがんであっても、症状/治療内容/副作用/働ける範囲は人によって大きく異なります。
企業側が勝手に判断して業務を外したり、逆に「今までどおり働けるはず」と決めつけたりすると、本人の負担につながることがあります。
必要なのは、「どのような配慮があれば働き続けられそうですか」という対話を重ねることです。
<乳がん・子宮がん>
手術や抗がん剤治療に伴う体力低下のほか、ホルモン治療が長期間続く場合があります。
また、外見の変化や将来の妊娠・出産への不安を抱える人も少なくありません。
職場には、以下の点での配慮が求められます。
・通院しやすい勤務調整
・治療への理解
・プライバシーへの配慮
<肺がん>
息切れや呼吸機能の低下が生じる場合があります。
階段移動や長距離移動、重労働が負担になることもあります。
職場には、以下の点での配慮が求められます。
・移動負担の軽減
・テレワーク活用
・業務内容の調整
<大腸がん>
人工肛門(ストーマ)の造設が必要になるケースがあります。
排泄管理やトイレへのアクセスが重要になるため、職場には以下の点での配慮が求められます。
・休憩時間の柔軟化
・トイレ利用への配慮
・業務中の離席への理解
<胃がん>
食事量の調整が必要になる場合があります。
少量ずつ食事を摂る必要がある人もいるため、職場には以下の点での配慮が求められます。
・食事時間への配慮
・長時間連続勤務の見直し
<前立腺がん>
治療後に頻尿や尿失禁などの症状が残ることがあります。
職場には以下の点での配慮が求められます。
・トイレ利用への理解
・長時間会議や長距離移動への配慮
おわりに

がんは決して特別な病気ではなく、多くの人が人生のどこかで向き合う可能性のある病気です。
医療の進歩により、がんと診断されても働き続けられるケースは増えている一方で、治療開始前の段階で離職してしまう人も少なくありません。
そんな中で企業に求められるのは、「がんになったら働けない」という前提ではなく、「どうすれば治療と仕事を両立できるか」を一緒に考える姿勢です。
がんの部位や症状によって必要な配慮は異なりますが、その出発点となるのは本人との対話です。
治療と仕事の両立を支える職場づくりは、がんになった人だけでなく、誰もが安心して働ける環境づくりにもつながるのではないでしょうか。
